さて、今回は弓道のことだけに凝り固まらずに考えることにします。
和弓と違って、アーチェリーは実に合理的にできています。
的に中るのが当たり前、つまり必中が前提であって、いかに中心に中てられるかを競います。
弓道をやっている人の中では、中て射のことをアーチェリーをやっていると揶揄する場合がありますが、これはアーチェリーに失礼過ぎます。
和弓より、アーチェリーの方が性能が優れているのは事実なのですから。
謙虚に比較し参考になる点に気付くこと、それも弓道のあり方なのではないかと私は勝手に思っています。
<仮説7>
弓道の離れとアーチェリーのリリースは別物?
<検証>
取り懸けた状態から弦を離すのに、手の力を抜く方法は合理的ではあります。
アーチェリーのリリースは、弦の戻りにブレを与えないように、引き手(右手)をあごに固定して、指の力を抜いて弦にまかせて開くと言われているそうです。
押し手は握らずに弓の中心だけを押し、照準やバランサーで姿勢を保ってブレが出ないようにしています。リリースした後、弓はなすがままの状態になります。弓がブランとなって、あまりかっこいいとは言えませんが、矢は必中です。
体の鍛練だけではなくて、道具のコンデションをもベストな状態に調整し道具を最大限に活用する、道具の使いこなしも求められます。要求される精度のレベルも高いわけです。
弓の引き方についても実にシンプルな方法なので、遊園地などのアトラクションにも使われる場合があります。
弓道では、精神や身体の鍛練が主で道具のことはあまり考えない、逆に道具に固執・工夫することが嫌われる面もあり、道具の使い方については無頓着に近いように思えます。ここは反省すべきところがあると思います。
引き方や持ち方も複雑で、取り懸けの方法だけでも1冊の教本になってもいいくらいの要素はあるのではないでしょうか。
取り懸けの方法については、2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)で説明していますので、参考にしてください。
ここで、補足しておきます。
取り懸けの形は流派によって違います。
形が違えば取り懸けを解く理屈も違いますので、形と方法をマッチさせることは重要です。卓球にシェイクハンドとペンホルダーがあったり、軟式テニスと硬式テニスで握り方が違うのと同様です。
押し手ではなく勝手の手の内(取り懸け)が、人には明かせない手の内です。明かせない手の内なので押し手か勝手かも明らかになっていないのは当然のことです。逆に、押し手の手の内のことにしておけば、勝手の手の内は明かさなくて済みます。
カケの精度、特にカケ帽子の長さは、親指にフィットさせる必要があります。しかし、オーダーメイドのカケは高価です。学生の方は既製品の中から一番合うものを選んで購入しピッタリとフィットしていないものを使っている人も多いと思います。
私が説明している取り懸け方は、カケの精度や手の形・器用さなどの個人差に影響しない方法です。
なぜなら、親指と中指の間にはカケ帽子と皮の厚みの影響しか介在していないからです。カケ帽子と親指の長さの関係はある程度無視できて、カケ帽子の長さや取り付け角度などのバラツキ、手の形や握力・器用さの個人差にロバスト性を持つ形になっています。さらに、カケ帽子の頭だけを酷使しないので局部的な磨耗も起こりにくく、カケに優しい使い方です。
しかも、押し手と勝手の手の内の形は違いますが、親指と中指を押し合っている力のかけ方はほぼ同じなので、取り懸けを整えることによって押し手も整ってくるという相乗効果が期待できる合理的な方法なのです。
実は、私が今使っているカケは、ダンボール箱の中に山積みされていた中から選んだものです。結構粘って選んだのですが、カケ帽子が親指より1mmほど長いものになってしまいました。カケ帽子の先端も尖がった形をしています。あまりフィットしていないカケでも的中は出せるのです。
(割と高価なオーダーメイドのピッタリなカケも作りましたが、自分にはもったいなくて使えていません。笑。)
さて、本題のアーチェリーとの比較に戻しましょう。
弓道においても、取り懸けの力をそっと抜いて離す方法で的中が出せます。しかし、弓道ではそれを良しとはしません。残身をも美しく表現することを求められ、力を抜いて離す方法ではそれが実現できないからです。
この価値観の違いは、アーチェリーがどれだけ的の中心に中ったかのみで評価するのに対して、弓道は中りだけではなく、射行・射形も評価するからです。もし、アーチェリーのような離れ方をすると中て射と言われ嫌われます。
しかし、正射は必中だと定義しています。
射形が綺麗でも中らなければ正射ではないのです。
カケの構造を活用して必中に近づく離れ方が、本当にあるかどうかは分かりませんが、それを追求することも正射の一つだと考えるわけです。
必中の物理的条件は、アーチェリーと全く同じです。
いかにブレずに離れるかにあります。
勝手を固定せず3次元的に浮いた状態で、しかも耳の後ろまで引き収める弓道では、会のままを持続させてそのまま弾けて離れることが、必中の物理的条件になります。しかも、残身につなげることが出来る条件にもなります。
したがって、この離れを出すためのカケ解きと張り合いの働かせ方が最も重要になるのです。ここがアーチェリーとは全く異なる点なのです。
張り合いについての説明を、もう一度復習してみてください。
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
正射必中のための離れの物理的条件は至ってシンプルです。
①正しい的付けになっていること。
②押しと引きの力が、矢の軸線方向に真っ直ぐ働いていること。
③離れの初動(カケ解き)が親指を中心に働くこと。
この3点を、どれだけ精度高く再現することができるかにあります。
(補足)
押し手についてです。
アーチェリーと違って、日本弓の握りは中心より下にあります。このため、下側が早く復元するため、小指で姿勢を保持しないと弓が上向きに回転してしまいます。この弓の回転を防ぐために押し手の小指を効かせます。
押し手の小指は効かせ過ぎてはいけません。小指を効かせ過ぎて残身で弓が前に倒れるようになると、弓は離れの瞬間に下向き回転を始めるので、矢が的の下に外れるようになるのです。逆に小指が効いてないと上に外れます。当たり前のことです。
<まとめ>
弓道の離れとアーチェリーのリリースは全くの別物です。
アーチェリーのリリースは、人が行う運動であるのに対して、弓道の離れは人の運動の先に起こる現象です。
弓道では、会のままを持続させてそのまま弾けて離れる、そのためのカケ解きと張り合いの方法を追求することが正射必中につながります。
(会まで引いてきてポンと離す、離し運動を練習することはやめましょう)
次は、正射必中に必要な幾何学的な必須条件を予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。
1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える
11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?
21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて
37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある
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