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2023年2月25日土曜日

◎弓道の的中(射技)の物理的考察〜弦捻りのルーティン〜

53.弦捻りのルーティン


弦捻りの必要性については、懐疑的な人も多いと思います。


弦捻りを知らない人、効かせなくても離れる人、手を開いて(緩めて)離す人々にとってはまったく無用なもの、存在を意識もしていないのかも知れません。


しかし、和弓の取り懸け構造での離れの導き方11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くかを読んでいただければ、手を開いて(緩めて)離す人にも有効に作用してくれるものであることは充分理解できると思います。


ただ単に捻りを効かせているというだけで、交差させた取り懸けの3つの指を弦で割り開く方向の力(テコの力)が働き、軽く取り懸けを解いてくれることをサポートして軽妙な離れを生むため、その作用を活用しないのは、まったくもったいない話(離し)なのです。


そして、取り懸けを解いて離れる人にとっては、48.スランプの原因を物理的に考察するで検証したように、的中(矢所の収束)に影響を及ぼす要素であることは事実です。

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しかも、弦捻りを効かせることは、実は勝手側だけではなく、押し手側を整える上でも大きく寄与しているのです。(もちろん、引き分けまでは暴発の防止になります)


多くの皆さんはそのことを意識していないのかも知れません。無意識のうちに使っているものかもしれないのですが、その作用を知っておくことでさらにその恩恵を活用できるようになることでしょう。



<仮説>

弦捻りは押し手と勝手の両方に作用する。(相応の作用)


<検証>

ここで、弦捻りを生み出して消滅するまでに、どんな有効な作用があるのかを明確にしておきたいと思います。


※弦捻りのサイクル※


<弓構え>:弦捻りの誕生

取り懸けを行い、押し手の手の内を作るわけですが、このときに弦捻りをかけ始めます。離れるときの弦捻りの大きさ(モーメント)を100%とすると、弓構えでは10%程度で良いでしょう。このモーメントを弦に働かせることによって、以下のチェックができます。

①弦が弦枕に密着していることを確認できます。

②矢が前に落ちないように、人差し指で保持されていることを確認できます。

③押し手の手の内がベタ押しにならないように、親指の中手骨(第2関節〜根本)と弓の十文字を作り出すことができます。ここで、捻りをかけないと、無造作に弓を握ってしまうことになっているでしょう。(押し手の手の内を整えるために働いています)

④角見の皮の巻き込みが充分か同時に確認できます。


 ⇩

<打起し>:確立

弦捻りは20〜30%程度まで増していきます。

①弓の姿勢を保持する。

②押し手の手の内の十文字を保持する。

③大三に進む際の弦からの矢の抜けを防ぎます。(矢を人差し指で押さえられる)

④大三に移行する際の暴発を防ぎます。(弦枕に弦をさらに密着させる)

⑤取り懸けが緩んでないか(握り込んでないか)を確認できます。

⑥親指が握り込んでないか(弦枕を弦に反発させているか)を確認できます。


 ⇩

<大三>:成長

弦捻りは50%程度まで増していきます。

①打起しの①〜④までと同様です。

②両肘の回内が緩んでないか(両肘で弓を引けているか)を確認できます。

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<引き分け>:充実

弦捻りは会に入るまでに80%程度まで徐々に増していきます。

①引き分けの暴発を防ぎます。

②両肘での張り合いを確認できます。

③たぐり(手首の力み)を防ぎます。

④会の準備を整えます。(詰め合い)

 ⇩

<会>:臨界

両肘(特に勝手側)の張りに合わせて、弦捻りはゆっくりと増し持続します。

①弦枕で弦を押し出していく(角見で弓を押していく)押し手側と勝手側の相応を働かせます。

②取り懸けが解ける寸前の臨界の状態を創ります。


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<離れ>:消滅


おそらく、皆さんは、以上のようなことを無意識のうちに行っているものと思います。


今回私が陥ったスランプを反省して、それぞれ節での目標値を置いて一つずつ確認しながら繰り返し精度を高め、スランプの再発を防ぐようにしました。もちろん、息づかい(呼吸)に合わせながらということになるのですが。


弦捻りの強さの目標(ねらい)

上図のように捻りの強さの目標を持っておくことも大切です。

ここを適当にやっていると、離れで急に捻りを効かせて振り解く「離し」になってしまって、矢所がバラつく原因になるからです。


離れる際の弦捻りの大きさ(モーメント)を100%としたとき、引き分けから会では80%程度まで高め、会でゆっくりと臨界(≧100%)の状態を創り出し、最終的には、両肘の張りと胸割りで離れに導くことで、精度の高い軽妙な離れが楽しめます。


このルーティンを回していれば、いつ離せばいいか、早気が治らない、もたれになったなどと、あれこれ悩む必要もなくなってくるわけです。離れまでのリズムを創ることで、ビクの抑止にもなるでしょう。



次に、押し手への作用を考えてみましょう。


<弓構え>:

③押し手の手の内がベタ押しにならないように、親指の中手骨(第2関節〜根本)と弓の十文字を作り出すことができます。

④角見の皮の巻き込みが同時に確認できます。

<打起し〜大三>:

②押し手の手の内の十文字を保持する。

<会>:

①弦枕で弦を押し出していく(角見で弓を押していく)押し手側と勝手側の相応を働かせます。


このように、弦捻りは、押し手側の準備(詰め合い)を整えるためにも、有効に働いているということなのです。



さらに、

離れに導くための最終手段である両肘の張りについても、考察しておきたいと思います。


32.的中率を上げるためにやれることで説明したように、会の終盤では、両肘で矢軸方向に張る精度を高めて、勝手側の肘で矢軸方向にまっすぐに離れるようにします。

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口でも説明しましたように、会では下図①②の方向に張り(筋力)を「ただひたすらに」効かせていけばいいわけですが、既成概念では、①押しを強調して教えられます。

ただ、私の経験では、押しのみを意識すると往々にして振り込みの離れになり、バランスの悪い離れとなってしまう傾向にあり、大離れにもなりにくくなってくるように思います。(中りは出るのですが)


最終的には、②③を連動させて、①②で張り合い、矢の離れ口のきっかけとなる④と②をできるだけ慎重にゆっくりと作用させていくことで、精度の高い離れが生み出せます。(ここで焦ると振り解きになって必ずブレがでます)


こういったことは、多くの人は意識していないでできているので、あえて教えようとはしないかも知れません。自身が意識していないことを人に教えるのは、不可能に近いことです。(他の人に聞かれて初めて気付かされることが多々あります)なので、見て気付くこと(見取り稽古)も重要です。



これが物理的に見た会〜離れの力の作用なのです。(前にも説明しましたが、あくまでもベクトル(力の方向)※であって、決して力むことではありません)


※ ベクトル(力の方向)≒ しなやか(ソフト)な力 ≠ 力み

 と表現した方が、実践しやすいかもしれません。



「張れや張れ、ただひたすらに梓弓、放つ矢先は知らぬなりけり」


これは、私が先生から教わった会での境地を表現した昔から伝わる弓道教歌ですが、離れという物理現象を生み会のままの残身という結果を得るための、会での一定の法則が定義されているようにも感じられます。



<まとめ>

弦捻りは、押し手と勝手の両方に作用します。各節での目標(ねらい)を置くことで精度の高い離れが生み出せます。しかし、弦捻りは、あくまで離れをサポートするものものであって、離れる手段ではありません。そこは、誤解しないでください。


会での心気の働きについては私には説明できませんが、物理的な力の働かせかたについては明確化できたのではないかと思います。射技の向上の参考にしてください。



次回は、「角見で押して離れる」という弓道の謎 を予定します。

的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。

解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。


がんばれ!

2023年2月4日土曜日

◎1月のベストな的中

 1月のベストな的中は、こんな感じです。


ベストな的中を出すには、

”一射の最終段階である会の状態の精度を高めること”

そのために、会の中にも節、四つの節のルーティン「射法八節+会四節」を設定したことを弓道の的中(射技)の物理的考察〜的中率をさらに上げるためにやれること〜で説明しましたので、参考にしてください。



的中と仲良しになるためには、ぜひ、弓道の的中(射技)の物理的考察を参考にして稽古を楽しんでください。


がんばれ!&