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2020年11月30日月曜日

◎弓道の的中(射技)の物理的考察~両肘の張りと弓の裏反りは似ている?~

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

32.的中率を上げるためにやれることで、胸弦と両肘の張りが最も重要であることを物理的に説明しました。
でも、おそらく、どのように力を働かせればそうなるのか、いまひとつわからず、手先に力が入って引いてしまうという人も多いかと思います。

また、最近の弓道場で自主練をしている人(自分も含めて)を見ると、コロナ禍で弓道場が使えず稽古ができない間に筋力が弱って、離れが体の前に浮いてしまい、矢所が定まらなくなっている方が多いように思います。

腕の筋肉は日常でも使っているのでさほど弱ってはいないのですが、弓を引く時に使う背筋は日頃ほとんど使わないためけっこう衰えていて、このアンバランスが、腕ではちゃんと引けているのに浮いた離れとなる、という原因になっているようです。

そこで、今回は両肘の張りの働かせ方について、もう少し説明したいと思います。


<仮説27>
両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

<検証>
この検証に入る前に、理解しやすいように、肩の骨格の動きを見ておきましょう。

まずは、肘を回内させた時の肩甲骨の動きに注目してください。
肘を回内させ過ぎると、上腕の回転に肩甲骨がついていってしまい、肩甲骨が浮き上がってしまう、ということが解ります。

次に、腕を上げた時(大三をとった時)の肩甲骨の動きに注目してください。

上腕の関節の可動域は上方向には約90°(水平)までしかないため、大三まで腕を上げると、肩甲骨(肩)は上腕と一緒に上がることが解ります。
つまり、肩を上げずに腕を上げるのは、骨格上無理な動きになるわけです。

このように、大三では、少し肩が上がることは自然なことなのですが、大三で肩を上げない(下げる)ことを指導する人もいて、逆に会での肩甲骨や上腕の収まりを悪くして、肘の位置がしっかり収まらないようにしてしまうことが、骨格の動きを見るとよく理解できると思います。

骨格には個人差があって、関節の可動域や骨の曲がりは違うので、それを考慮して人それぞれの自然な形としていくことは大切なのです。要は会の詰合いに向かって整うようにしていくことです。

では、腕を真横に広げた(会まで引き分けた)状態の時の上腕と肩甲骨の動きに注目してください。
肩甲骨を動かさないで両腕を広げた時、上腕の可動域は約180°(背中と同じ面)までです。

つまり、上腕で引き分けてきた時の肘の位置は、背中と同じ面までで止まってしまい、上腕で引いているだけでは肘での張りはここで止まってしまう、ということになるのです。

会で肘の張りを効かすということは、この位置からさらに上腕と肩甲骨を一体にした状態で、背筋で肩甲骨を引き寄せている状態ということになるわけです。

コロナ禍で稽古ができない間に弱った背筋では、前と同じように引けているようでも、前と同じような肘での張りが効かせてはいないので、手先で離してしまう射となってしまっています。

付け加えておくと、肩の上り下がりや入りすぎや抜けなど、細かいことを指導され、気にしたりしている人も多いようです。確かに射形の美しさの追及も必要なのですが、物理的には的中にあまり相関がありません。(3.的中についてを参考にしてください)


したがって、会に入ったら、細かいことは考えずに32.的中率を上げるためにやれることの2つのポイントに集中することです。その先、「離れ」となるか「離し」になるかは解りませんが、それはそれで良いのです。




それでは、本題に入りましょう。
胸弦と両肘の張りの働かせ方を、詳しく、具体的に説明していきたいと思います。

まず、押し手側の話です。

押し手側の上腕は、肩関節よりは前側にあるので、上腕の筋力の働く可動域内にあります。したがって、腕の筋力を効かせて、押し肘で真っ直ぐ矢軸方向に張りを効かせることができます。肩甲骨は浮かない程度になっていれば、肩は抜けないわけです。

上図②のように、矢軸線方向に真っ直ぐ張りを効かせると、弓を真っ直ぐ押す分力②’と腕を背中側へ開く分力②”が働くことになり、この②”によって、自然に、押し肩を矢に近づけることができるようになっているのです。


次に、勝手側の話です。

勝手側の上腕は、会に入ると、肩関節の真横の位置(肩甲骨の上腕の付け根の関節の可動域の限界)まで引きこんできているので、腕の筋力(④’)では、これ以上後ろには引けない骨格構造になっています。(上の骨格モデルの動画を参照してください)なので、ここで腕の筋力の張りは止まってしまいます。

ここからさらに張りを効かせようとすると、上腕と肩甲骨とを一体にして、背筋を使って背中の後ろに(④”)引き込もうとします。この背筋の筋力④”によって、勝手側の肩を矢に近づけることができようになります。

しかし、人は④’と④”のそれぞれを意識して力をかけれるほど器用ではありません。

なので、肘で、④の方向に張りをかけることを意識して引くことで、自然に勝手側の肩を矢に近づけることができようになります。

しかも、④は、弦から真っ直ぐカケ帽子を引き抜く方向の張りとなっているのです。


細かく説明してきましたが、なんかよく解らないという人は・・・。
とにかく、
会に入った時に頭の中で、上図の②と④の矢印をイメージして、両肘で張りをかけていき、その張りを胸弦で受け止めることで、これら3点からの反発を感じながら筋力の張りをかけるようにしてみてください。

合わせて、勝手の取り懸けの臨界状態を創って、離れるための努力をしていくことも重要で、これらが揃った時に、気持ちの良い離れが生まれてくるようになることでしょう。


さて、
押し手側の上腕筋、勝手側の上腕筋と背筋で生み出す両肘の張りは、離れた後に両腕を背中の後ろ側まで開いた残身の形を生み出します。それはまるで、ピンと張った弦を外した後の弓の裏反りに似ています。
弦を張った時の弓の形と外した時の裏反り
会に入った時の両肘の張りは、この弓の裏反りにでもなった気持ちで効かせると良いでしょう。胸弦はこの裏反りの張りを受け止めている弦のイメージです。


<まとめ>
会の中で、弓の裏反りのように、胸弦と両肘の3点を意識して張りを効かせ続け、取り懸けの臨界状態を創って、離れを生み出そうと努力することが、的中率を上げるためにやれることとなるのです。(決して、タイミング良く離す練習をすることではありません)


ちなみに、この写真は、標準的な樹脂弓と肥後蘇山の裏反りを比較したものです。
肥後蘇山の裏反りは竹弓に近く、返りも速いので、私は気に入っています。
標準的な樹脂弓と肥後蘇山の裏反り


次回は、的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手があるを予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。

がんばれ!

2020年11月6日金曜日

10月のベストな的中

 10月のベストな的中は、これです。


弓道場の休館期間中の約4ヶ月、それほど筋力も衰えなかったかと思われましたが、稽古の矢数を増やして行くと、だんだん解ってきます。


腕の筋肉は日常でも使っているので、さほど衰えてはいないようですが、会の張りで最も重要な背筋は、日常ではあまり使わないので、気付かないうちに衰えていて、張りを効かせた離れができず、体の前で弓を引いてしまい、浮いた離れとなり、気持ちの良い離れができなくなってきています。なので、矢所はバラツキがちです。


皆中ではありませんが、このように、気持ち良い離れが出た結果の方が、喜ばしいことが多々あります。


しばらくは、背筋を回復させることを意識したいと思います。


的中と仲良しになるためには、ぜひ、弓道の的中(射技)の物理的考察を参考にしてください。