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2018年9月7日金曜日

弓道の的中(射技)の物理的考察〜会での勝手の手の内を考える〜

10.会での勝手の手の内を考える

ここからは、さらに細かな部分の射技の疑問について仮説をたて、妥当性の検証を行っていきたいと思います。

勝手の手の内の機能を考えてみましょう。

①矢こぼれしないように、矢を保持する。
②引き分けのとき、暴発させないように取り懸けをロックする。
③軽妙な離れを生む。
④弦をブレ無く送り出す。

これら、的中に直結する複数の機能を果たさなければなりません。
弦を握って離せば良いといった単純なものではないということです。

①②③については、これまでに説明してきたのでここでは割愛します。
(写真の数字は本文とは関係しません)
④はどういうことかというと、
離れた瞬間、弦は取り懸けが解けた3つの指の中をかいくぐって出て行くわけですから、3つの指が弦の進路を邪魔しないようになっていなければ、矢はブレて的付け通りに飛んで行ってはくれません。
つまり、矢をブレなく送り出すための発射台としての機能も果たさなければならないのです。
取り懸けが解けた瞬間
親指のカケ帽子や腰が硬く形を保持する構造になっているのは、この機能を果たすためでもあると考えられます。
(したがって、和帽子では的中は難しいです。アーチェリーの様に勝手を固定したリリースができれば別かとは思いますが・・・)
このように、親指はカケ帽子で形が固まっているのでいいんですが、中指・人差し指もちゃんと形を整える必要があるのです。
弦の進路を邪魔しない形とは、当然、親指と同様に真っ直ぐに近いほど良いということになります。

<仮説1>
 会での張り合いでは取り懸けを薄く絞ること。

<検証>
会での張り合いでは取り懸けを薄く絞るとは、
中指・人差し指の基節骨(第2関節~付け根)を親指に寄せていき、親指の腹の面を中指で前下に押し出す方向に力を向け、親指は中指に反発させます。

したがって、親指は反る方向に力が作用するようになります。このことで親指の第2関節部分が折れずに弦捻りの作用を指先に伝えることができるようになります。

反る方向に力を作用させず、親指の第2関節が曲がってくると弦捻りの作用は吸収され、結果、離れが出にくくなってしまいます。
良い悪い
人差し指と矢のあたりも弱くなる(取り懸けを上から見て親指の第2関節を曲げると弦枕と人差し指が離れてくることが解ります)ために、矢口が開いてくるようになるのです。
会で矢口が開いてくる人は、勝手にたぐりが出ていないか、取り懸けを薄く絞り親指を反る方向に作用させているかを点検してみると良いでしょう。

その後会では、肘で引きながら弦捻りをかけて、弦をテコにしてカケ帽子を押し、中指で親指の腹を前に押し出す方向に力の方向を変え、取り懸けが解ける(指パッチンが起こる)寸前の状態を作っていきます。

このとき、親指と中指はほぼ平行に接しているような状態になっています。指を曲げてカケ帽子を握り込むようにしてはいけません。(実際には弓力がかかっているので、指は若干曲がってしまうので、見た目は握りこんでいるように見えるので、誤解されやすいのですが)

そして、残身へ向かう肘で引く力と捻りとで、取り懸けを解く努力を続けると、さらっと軽妙な離れが出るのです。(手を開いて離すのではありません)

離れた弦は、ほぼ真っ直ぐになった3つの指の間を、ブレることなく通過して行くのです。
強弓を引いていた昔は、弓の力で指を弾いてくれるので、取り懸けの形などさほど影響無かったでしょう。
しかし今は、10~15kg程度を引いている人が多いようなので、取り懸けの形の影響は無視できなくなってきます。弓が弱いほど綺麗な取り懸けが要求されるので、弱い弓は引きこなすのが難しいのです。


押し手の手の内の機能も考えておきましょう。

①角見で弓を真っ直ぐに押す
②弓返りさせる
③弓の姿勢をコントロールする

①は、7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~で説明していますので、復習しておいてください。親指の中手骨を弓にほぼ直角に当てて骨格で力を受け、弓の反動に負けないようにすることが大切です。

手の内と弓の十文字が崩れベタ押しになると、前に弓を倒そうとするモーメント力がかかってしまうし、手首の力が必要となって楽に引けなくなります。
残身で弓が前に倒れている人は、この十文字が整っていない可能性があります。

②は、手の皮を握りに巻きつけていくようにして(雑巾を絞るようにと言われます)、親指と中指で輪を作るようにしていれば、その中で弓は回ってくれます。(握卵(あくらん)と表現されます)弓返りは矢の飛び出す瞬間にはそれほど影響する動きではありません。離れの動きと残身の美しさへのこだわりだと思います。

この時、押し手と勝手の親指と中指はどちらとも押し合っていて、形は違いますが、力の働かせ方としてはほぼ同じことをしていることに気づいておいてください。同じことをすればいいのです。

③は、日本の弓は握りから上が長く下が短い構造なので下側が早く復元して、握りを中心に下側が前に回ろうとします。小指で押さえて弓の姿勢をコントロールしなければならないのです。しかし、これも矢の飛び出す瞬間にはそれほど影響の出る動きではありません。これも、残身の美しい形へのこだわりだと思います。

薬指は、中指と小指の形を整えるためのスペーサーとなります。紅葉重ねを作るためには不可欠な存在なのです。



<まとめ>
このように、勝手と押し手の手の内の機能を比較してみると、
①以外は押し手の手の内は射形の美しさへの課題であり、物理的に的中に直結するのは勝手の手の内なのだと言うことが良くわかると思います。

このことに早く気付いて、押し手よりも勝手の手の内を重視して鍛錬していって欲しいと思います。勝手側が整ってくれば、ほぼ同じ力の働かせ方をしている押し手も整ってくるのです。押し手はいつも自分の目の前に見えているのですから、勝手なことはできませんよね。


次回は、親指と中指のクロスをどう解くかを予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。


がんばれ!


弓道の的中(射技)の物理的考察
もくじ

0.弓道の再開


1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える

11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?

21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

30.押し肘の回内はなぜ必要か?


31.夏の暑さから弓を守るには

32.的中率を上げるためにやれること

33.かけがえのないものを受け継ぐには

34.かけほどきを身につけよう

35.(続)夏の暑さから弓を守るには

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある

38.的中のための本当のねらいとは

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう

40.的中は矢から学べ


41.「矢に学ぶ」①矢を分ける

42.「矢に学ぶ」②矢筋にのせる

43.「矢に学ぶ」③矢押し

44.「矢に学ぶ」④矢引き

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口

46.「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる

47.「矢に学ぶ」⑦矢になる

48.スランプの原因を物理的に考察する

49.取り懸けをミクロに考察してみる

50.取り懸けをミクロに考察してみる(大切な補足編)


51.「離れ」の瞬間を考察する


がんばれ!

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