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2021年12月13日月曜日

◎弓道の的中(射技)の物理的考察〜「矢に学ぶ」④矢引き〜

44.「矢に学ぶ」④矢引き


普通、私たちは「弓を引く」と言います。

確かに実際には、弓手で弓を押し、馬手で弓(弦)を引きます。


しかし、よく考えてみると、一射の中でのインプットは矢であり、アウトプットは矢所であって、主役は矢であるということに気付かなければなりません。


「矢に学ぶ」という考え方は、矢を主体に、矢を正しくコントロールするには自分がどのようにしていかなければならないのかを考えさせてくれます。


例えば、打起した時に、教本の射法八節図解に示すように矢は水平で体に平行な位置になっているでしょうか。そうなっていなければ、なぜそうならないのかどうやればそうなるのかを考えて修正していくことが、上達していくということなのでしょう。



「矢に学ぶ」

①矢を分ける

②矢筋にのせる

③矢押し

④矢引き(今回)

⑤矢の離れ口

⑥矢妻をとる

⑦矢になる


昔の考え方なので、今では違和感があるところもありますが、今回も原文のまま紹介したいと思います。


「矢に学ぶ」(原文)

S59.10.25

④矢引き


  • 「矢引き」と申しますのは、押手の矢押しに相応し追従するように右腕を働かせることであります。一般には勝手に「張りをとる」と申しています。


  • 大三で先ずしっかり「肘かかえ」します。そのため右肩が釣り上がっても結構です。このとき「懐(ふところ)を広くとる」ために手先を「ハネ出し」、弓面と体面を離して併行になるよう気を付けて下さい。次に引取は絶対に「直引き」しないで、肘先で虹を画くように「外筋」を使って「引き回し」最後に引込みは一層弓圧が強くなるところですから、気力で矢束一杯、充分に「引きつけ」ます。そして会にはいったら、先ず右側の肩、胸を「張り」ます。(以上引技)


  • 大三のときは「下弦を引く」感覚が大切です。右肘先で弦を受け止める(肘力)と自然にそうなります。「引き回し」のときは弽が抜けるような手首に無力の感覚があれば結構で、このとき「手首かかり」となったら駄目です。会にはいると弦圧は親指腹(弽の弦枕)の一点に集中します。このとき弽の帽子の中の親指の爪先が、帽子の天井と「セリ合って」一触即発の状態になっていることが大切です。(以上手の裏)



ここでのポイントは、以下の3点になります。


①勝手は押手に追従させてバランスをとること。

②大三では「肘をかかえ」「懐を広くとる」こと。

③肘で引き、手首を力まない。勝手の手の内では、「親指の爪先が帽子の天井とセリ合って」一触即発の状態にすること。


②では、「大三では、右肩が釣り上がっても結構です」とあります。

大三の右腕の位置では、骨格上肩が上がる方が自然であり、ここで、右肩を下げるようにすると、右肩の上腕の関節が後ろまで入らなくなり、右肘の収まりが悪くなります。このことが解るように、以下の記事で、骨格動画を紹介しています。

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

③で、実際には、かけ帽子の中で親指は曲がってしまうので、爪先を帽子の天井とせり合わせるという感覚(既成概念ですが)は実現するには難しいように思います。文字通りにやろうとすると、どうしても手が開く離れになってしまうようです。


懸け解きの作用を考えると、以下の記事で説明したように、弦ひねりを効かせた上で、弦枕で弦を押し出していくという具体的な力のかけ方で考えるほうが理にかなっているように思います。

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう



物理的な現象で見れば、親指を押さえている中指が摩擦で止まっている限界を超えて弽帽子から外れることが離れの瞬間です。そして、その動きは、親指(弦枕)を中心とした弦ひねりと矢軸方向の肘の張りとの合力によってもたらされます。(青矢印)

矢所のバラツキは、こらの力の強弱ではなく、中心と方向をどれだけ精度良く合わせることができるかで収束させることができるのです。


両者は、表現が違うだけなのかもしれませんが、誤解のないように理解した方が良いでしょう。


いずれにせよ、最終的には、「一触即発の状態」に持っていかなければならないことは同じです。



<まとめ>

弓道教本の射法八節図解にあるように、矢の水平・平行を保つことは容易なことではありません。しかし、物理的には、そうすることによってブレの原因となる分力を抑えられる形であることは明らかです。力の強弱ではなく、力の中心や方向の精度の高さが的中に結びつきます。なので、そういう形にするにはどのように引けば良いのかを考え、工夫していくと良いでしょう。



次回は、「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口 を予定します。

的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。

解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。


がんばれ!
 



弓道の的中(射技)の物理的考察
もくじ

0.弓道の再開


1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える

11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?

21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

30.押し肘の回内はなぜ必要か?


31.夏の暑さから弓を守るには

32.的中率を上げるためにやれること

33.かけがえのないものを受け継ぐには

34.かけほどきを身につけよう

35.(続)夏の暑さから弓を守るには

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある

38.的中のための本当のねらいとは

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう

40.的中は矢から学べ


41.「矢に学ぶ」①矢を分ける

42.「矢に学ぶ」②矢筋にのせる

43.「矢に学ぶ」③矢押し

44.「矢に学ぶ」④矢引き

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口

46.「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる

47.「矢に学ぶ」⑦矢になる

48.スランプの原因を物理的に考察する

49.取り懸けをミクロに考察してみる

50.取り懸けをミクロに考察してみる(大切な補足編)


51.「離れ」の瞬間を考察する


がんばれ!

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