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2019年6月22日土曜日

弓道の的中(射技)の物理的考察~弓返りに大切なのは弓の捻り~

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

さて今回も、いただいた質問にお答えすることにいたします。
(「的中率を上げるためにやれること」は検証中のため延期させていただきます)

今回の課題は、腕をはらってしまうときにどう対処したらいいかということです。

押し手の手の内を正しく働かせることができていれば、必ずしも弓返りしなくても腕をはらうことはないのですが、弓返りさせることに理屈は共通しています。

結論から説明します。
手の内の中での弓の位置は、弓の捻りをフリーにした状態で30〜45°の位置です。
離れた後は常にこの位置に戻るので、腕を払うことはありません。

会を上から見ると矢と押しの腕の肘の位置は接近しています。
離れた後、弦は勝手の親指の先端を通るので耳には当たりませんが、下の写真の矢の位置のままに弦が戻れば、押しの腕に当たってしまうことになります。
しかし、上の写真の位置に戻って行けば、腕に当たることは無いのです。


<仮説21>
弓返りに大切なのは弓の捻り

<検証>
弓返り(弓の回転)を起こすには、弓に回転モーメントを働かせる必要があります。

角見で弓の右端を押して回転モーメントを働かせることで弓返りをさせると説明する人もいますが、回転中心からの距離は近過ぎるし、会では弓力で手が潰れて弓を面で押していることになるので、骨が膨らんでいる角見の部分は強く当たってはいるものの、回転するほどのモーメントがかかっているとは考え難いわけです。
このことは、手を開いて角見で押して弦を少し引いて離して見ると、ほとんど回転しないことで解ります。

それでは、取り懸けの位置から弦を指で捻って会の位置で離して見てください。
弓全体がねじられるとともに手の皮もねじられて回転モーメントがかかり、弦は元の位置まで勢いよく戻ろうとします。
弓返りの素
これが、弓返りを起こすための回転モーメントなのです。

会では、弓のねじれと手の皮のねじれで常に回転モーメントが働いている状態となります。

離れて弓の回転が始まった後は、親指と人差し指で弓をはさむ力が回転を加速することになります。

弓を握りこんでいればここで止まるのですが、弓を握り込まない手の内では、弓の慣性で残身の位置まで回転して弓返りを起こすわけです。
この回転モーメントを効かせるための手の内の中での弓の位置が、これなのです。
この位置から弓を捻り、手の皮も捻って、緩めないことが大切なのです。


さて、腕を払ってしまうのはなぜでしょうか?
通常は体の前で弓を引いているので、猿腕でかなり腕が曲がっている場合を除けば、腕と弦とはある程度のクリアランスが保てています。
腕の中心線と親指と人さし指の中央が一直線上に位置することが重要です。

なぜなら、弓の力を真っ直ぐに腕の骨に伝えるためです。
これがずれていると、弓を支えるための余計な力(分力やモーメント)が必要になり、手首や手の内の力みになります。
このように手首を控えすぎていると、手首を折って離れるようになってしまいます。
手首を折って離れると、腕と弦を近付けることとなって、腕を払ってしまうわけです。
また、ベタ押しになってしまうと、角見の凸部から弓の右端が落ち込んでしまうので、弓の捻りが効かせなくなり、腕を払うことになります。

捻りを効かせるために小指を弓に巻きつけるように指導する人もいて、小指が短いのに無理矢理とどかせようとするあまりベタ押しになってしまっている人も多く見かけますが、逆効果です。小指が巻きついていなくても、薬指までは誰もが届いて弓の捻りは効かせることができるので、弓返りは出せます。
小指を浮かせて引いても・・・

小指を掛けないと、弓の下側が速く戻り、弓が上を向くのを押さえきれない
小指の効かせ方は、10.会での勝手の手の内を考える13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?でも触れていますので、参考にしてください。

弓に捻りを効かせる感覚は、左手の手の内の形を作って、両手でタオル(雑巾)を絞ってみることでつかめると思います。決して必要以上には握り込まず、タオル(雑巾)が手の内の中を滑り出さない程度の握りの感覚も味わうことができます。試してみてください。


<まとめ>
弓返りをさせるためには、押し手の手の内の中の弓の位置が重要です。
この位置からの弓の捻りがあれば、腕を払うこともなく、綺麗な弓返りが出せます。
小指を無理やり巻きつけることは、逆効果となる場合があるので気をつけましょう。


次回は、的中率を上げるためにやれることを予定します。的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。

がんばれ!


弓道の的中(射技)の物理的考察
もくじ

0.弓道の再開


1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える

11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?

21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

30.押し肘の回内はなぜ必要か?


31.夏の暑さから弓を守るには

32.的中率を上げるためにやれること

33.かけがえのないものを受け継ぐには

34.かけほどきを身につけよう

35.(続)夏の暑さから弓を守るには

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある

38.的中のための本当のねらいとは

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう

40.的中は矢から学べ


41.「矢に学ぶ」①矢を分ける

42.「矢に学ぶ」②矢筋にのせる

43.「矢に学ぶ」③矢押し

44.「矢に学ぶ」④矢引き

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口

46.「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる

47.「矢に学ぶ」⑦矢になる

48.スランプの原因を物理的に考察する

49.取り懸けをミクロに考察してみる

50.取り懸けをミクロに考察してみる(大切な補足編)


51.「離れ」の瞬間を考察する


がんばれ!
 

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