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2020年1月26日日曜日

弓道の的中(射技)の物理的考察~かけがえのないものを受け継ぐには~

33.かけがえのないものを受け継ぐには

弽(カケ)は、数年使っていると親指のカケ帽子の頭の皮がこすれて穴が開いたり、縫い目の糸が切れて皮がめくれたりと、補修が必要になってきます。

新しいカケに替えると、かけ帽子の感覚や腰の硬さ、特に的中に影響する弦枕の深さや傾斜、皮や腰の硬さなど、馴染んできて慣れるのに時間がかかりますし、最悪の場合には射形を崩してしまうこともあります。

今回は、私が30年以上ぶりに弓道を再開するときに、新しいカケに馴染むようにどう工夫してきたかをお話ししますので、参考にしてください。
40年前に購入した古いカケ
再開時に購入した新しいカケ


<仮説25>
カケと永くつき合うには、補修に役立つグッズと交代時のコツがあります。


<検証>
結論から言います。
①エポキシ系接着剤19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?で紹介しました)
②皮革用接着剤(クリヤー)
この2つで、古いカケも充分使えるように補修することができます。
100均ショップやホームセンターで買えます。

そして、
新しいカケに替えるときは、最初に①で弦枕を調整した後、新旧交互に使いながら慣れていくことで、的中や射形を崩さないようにしていくことをお勧めします。


ではまず、古いカケの補修方法を説明します。
例えば、このようにカケ帽子の頭が擦れて穴が開いてしまった場合の補修方法です。
カケ帽子の穴が開いた部分の補修
穴の開いた部分とその回りに薄く①エポキシ系接着剤を塗って補強するだけです。
接着剤がかけ帽子の中身や皮に染み込んで表面が樹脂化するので、穴は拡大しなくなりますし、補強にもなります。

中指と擦れる皮がケバだってきた場合にも効果があります。
これは、ケバだってきた部分に薄く塗って補修した例です。
新しいカケももう3年以上使ってきましたので、カケ帽子の先に穴が開いてきましたし、皮の擦れによるケバだちで取り懸けが解ける際の中指の滑りが悪くなってきました。
カケ帽子の穴が開いたり削れた部分の補修
弦枕や擦れる部分の補修は、硬く樹脂化する①エポキシ系接着剤を使います。


では、擦れて縫い目が無くなったり、皮が破れてめくれてきたりしたところの補修方法を説明します。

素人が再度縫い合わせることは至難の技なので、②皮革用接着剤を使って接着します。使用する接着剤はクリヤーのものが色が着かなくて良いです。うまく接着するには、塗った後少し時間を置いて粘りが出てきてから圧着することです。
縫い目が削れて無くなった部分の補修

皮が切れてしまった部分は、余った握り皮をパッチに使ってつなぐと良いでしょう。
厚い皮を縫う場合には、千枚通しなどで縫い目の穴を開けてから縫わないと、針は通せません。

これで、今まで使ってきた古いカケも従来の自分の射の状態確認用や新しいカケに何かあった時のバックアップとして充分使えるようになります。


次に、新しいカケの準備です。
新しいカケは、初心者でも使えるように弦枕が深めにできているようです。
実はここが、最初の難関です。

今まで使い込んできたカケの弦枕は、通常は削れて浅くなめらかな溝の傾きになっています(逆にくぼんで引っかかるようになる場合もあるようです)。この新旧の弦枕の深さや溝の傾きのギャップで、今まで通りの離れが再現できなくなるのです。

かといって、新しいカケの弦枕をいきなり削ることは壊すリスクがあってできません(中には削って調整ができるように工夫されたものもあります)。なので、19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?で紹介したように、①エポキシ系接着剤とヤスリを使って、弦枕の深さや傾きを古いカケに近くなるように調整しておきます。
弦枕を調整した新しいカケで巻藁で引いてみて、古いカケと同じようにスムーズに離れるか?弦枕が引っかからないか?を確認しましょう。ここからがスタートです。

巻藁で新しいカケに少し慣れてきてから、的前で引き始めます。慣れないうちは今までのような的中はなかなか出ません。そのまま新しいカケで引き続けると的中の出し方を忘れてしまうどころか、射形まで崩してしまうことになります。新しいカケに自分を合わせて引くようになるからです。

なので、補修した古いカケに戻って調子を確認しながら、少しづつ新しいカケで引く立ちを増やしていって、慎重に慎重に新しいカケに慣れていくことをお勧めします。

私の場合、新しいカケは既製品から選んだものなので、かけ帽子と親指が1〜2mmほど空き、これに慣れるのに1年以上交互に使い続けてやっと違和感が無くなり、替えることができました。26.既製のカケは親指で選ぶで紹介したような取り懸けの工夫が必要となったわけです。


<まとめ>
新しいカケに替える時は、的中や射形を崩さないために、弦枕の調整を行なった上で、新旧を交互に使いながら慣れていくようにしましょう。
そして、カケの調整、補修には、エポキシ系接着剤や皮革用接着剤が役立ちます。
かけがえのないものとは、自分の射そのものということなのです。


次回は、かけほどきを身につけようを予定します。的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。

がんばれ!


弓道の的中(射技)の物理的考察
もくじ

0.弓道の再開


1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える

11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?

21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

30.押し肘の回内はなぜ必要か?


31.夏の暑さから弓を守るには

32.的中率を上げるためにやれること

33.かけがえのないものを受け継ぐには

34.かけほどきを身につけよう

35.(続)夏の暑さから弓を守るには

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある

38.的中のための本当のねらいとは

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう

40.的中は矢から学べ


41.「矢に学ぶ」①矢を分ける

42.「矢に学ぶ」②矢筋にのせる

43.「矢に学ぶ」③矢押し

44.「矢に学ぶ」④矢引き

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口

46.「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる

47.「矢に学ぶ」⑦矢になる

48.スランプの原因を物理的に考察する

49.取り懸けをミクロに考察してみる

50.取り懸けをミクロに考察してみる(大切な補足編)


51.「離れ」の瞬間を考察する


がんばれ!