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2021年8月13日金曜日

◎弓道の的中(射技)の物理的考察〜的中は矢から学べ〜

 40.的中は矢から学べ


学生さんたちの練習を見ていると、よく見かけることがあります。


矢所が安定していない人を指導している時、肩や肘の抜け、上がり、下がりなどを会の中にまで、細かに修正しようとしている場面です。


当事者にとっては良かれと思ってやっていることであるとは思いますが、私は、この指導方法には疑問に感じます。逆にありがた迷惑ではないかとも考えています。


射形を修正するのは詰め合いまでであって、会に入ったあとは、張り合いや伸び合いに集中させるべきなのです。


そして、矢所が安定しない原因は、会から離れの瞬間までの矢の動きを注視することで学べることが多くあるのです。



<仮説31>

的中は矢から学べ


<検証>

私たちは、できるだけ精度高く整った詰め合いが実現できるよう一射一射努力して引いているわけですが、どうしても会での収まりは一射一射それぞれ違ってくるのです。これは、頭の後ろまで引き分けて、三次元でフリーな勝手の状態で会に入る弓道にとって、どうしても避け難いことなのです。


したがって、

詰め合いが終わったら、自分の詰め合いの結果をすべて受け入れた上で、一射一射の違った詰め合いに対処して、精度の高い張り合いや伸び合いを実現していく努力をする方法を身につけたほうが、実に発展的な練習だと考えるのです。


試合でも、審査でも、いつもと同じように引いているつもりでいても、決して同じにはなりません。時には、反射的に離そうとするビクに見舞われ、せっかくの詰め合いが台無しになることもあります。


しかし、17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件で説明したように、離れの際のブレ量が±3mm内に収まるように離れることができれば、的中は実現できます。


詰め合いがどんな結果になったとしても、ビクに見舞われ詰め合いが台無しになったとしても、そのような困難な局面に対して、精度の高い張り合いや伸び合いで正しく対処することによって、的中を実現することができます。これも正射の一つだと私は考えます。


矢所が安定しない人の原因を見極めるには、会で色々と射形を修正するのではなく、会から離れの瞬間までの矢の動きを注視することが一番大切です。物理的に起こっている現象を捉えるわけです。


会の中での矢の動きを注視していて、


①矢が大きく上下左右に振れて収束しないうちに離れている。

この場合、的付けを安定させようと腕の位置を固定しようとするあまり張り合いが止まっているか、張り合いの方向が矢の軸線上に合っていない可能性があります。

腕の位置を固定しようとすると、上にズレてきた時下方向に修正しようとする力が働き、下にズレてきた時上方向に修正しようとする力が働き、これらが半永久的に続くので、振れは収束しません。逆に増幅されることがあります。

会の状態での矢の安定「矢の澄み」は、張り合いの方向を矢の軸線上に合わせることでしか実現できません。物理的に見れば、張り合いの方向を矢の軸線上に合わせることは、弓を押している力の上下左右の分力をゼロに近づけるということなのです。


②矢が離れで一瞬動いて離れている。

この場合、手の力を緩めて離しているとか、手先の力での離れ、取り懸け方が悪いなどによる引き離れとかの原因が考えられますので、それらを確認していくと良いでしょう。


③矢が下を向く。(会の中で)

剛弓でなければ、矢が平行より下を向くことはあり得ません。勝手を切り下げながら離している可能性があります。タイミングが合っている間は的中は出ますが、タイミングがずれると掃き矢が多くなるでしょう。


④矢が下を向く。(離れの瞬間)

手の内がベタ押しになっていて、弓を倒す方向に力が入り過ぎています。手の内と弓の十文字を正しく理解し、上押しを弓に真っ直ぐに効かせましょう。13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?を参考にしてください。

あるいは、勝手を切り上げながら離している可能性があります。32.的中率を上げるためにやれることの説明は上から見た絵になっていますが、背中から見た絵に想像すると参考になるでしょう。


⑤矢が上を向く。(離れの瞬間)

④の逆で、上押しと小指の引っ掛かりが甘い可能性があります。29.弓返りに大切なのは弓の捻りも参考にしてください。

あるいは、勝手を切り下げながら離している可能性もあります。


このように、会から離れの瞬間までの矢の動きを注視し、物理的な現象を捉えることで、多くのことが学べるのです。



<まとめ>

「的中は矢から学べ」、つまり、矢所のバラツキの原因は、矢が教えてくれます。

まず、会から離れの瞬間までの矢の動きを注視して、原因を突き詰めることが上達への早道です。


「矢に学ぶ」というのは、私が先生から教わった考え方です。

今回、私が感じたことを物理的にアレンジした内容で説明しました。


次回から、「矢に学ぶ」という考え方について、オリジナルの内容を紹介したいと思います。昔の考え方なので違和感があるところもありますが、参考にしてください。


「矢に学ぶ」

①矢を分ける(次回)

②矢筋にのせる

③矢押し

④矢引き

⑤矢の離れ口

⑥矢妻をとる

⑦矢になる



次回は、「矢に学ぶ」①矢を分ける を予定します。

的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。

解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。


がんばれ!



 


弓道の的中(射技)の物理的考察
もくじ

0.弓道の再開


1.はじめに
2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)
3.的中について
4.離れについて
5.手を開いて(緩めて)離すことの弊害について(的中、上達を妨げるもの)
6.詰め合いについて
7ー1.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー2.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー3.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
8.伸び合いについて
9.会のままの残身について
10.会での勝手の手の内を考える

11.取り懸けの親指と中指のクロスをどう解くか
12.取り懸けで親指を押える位置は?
13.押し手の手の内を作るとき、角見の皮を巻き込む?
14.「離す」と「離れる」はどう違う?
15.胸弦の活用
16.弓道の離れとアーチェリーのリリースとの比較
17.正射必中に必要な幾何学的な必須条件
18.細かい話にはなりますが
19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
20.中りに重要なのは押し手ではないのか?

21.会では見えない動作がある?
22.残身まで開く力αはどれだけ大きくできるのか?
23.集中力、モチベーションを下げない練習方法ってないの?
24.弦捻りの中心は、矢軸か親指の弦枕か?
25.カケ解きはどのように作用させればいいの?
26.既製のカケは親指で選ぶ
27.弦捻りの誤解
28.勝手の中指で親指の腹を押し出すについて

29.弓返りに大切なのは弓の捻り

30.押し肘の回内はなぜ必要か?


31.夏の暑さから弓を守るには

32.的中率を上げるためにやれること

33.かけがえのないものを受け継ぐには

34.かけほどきを身につけよう

35.(続)夏の暑さから弓を守るには

36.両肘の張りと弓の裏反りは似ている?

37.的中を維持するには、お風呂でエクササイズという手がある

38.的中のための本当のねらいとは

39.かけほどきの力の反作用も考えてみよう

40.的中は矢から学べ


41.「矢に学ぶ」①矢を分ける

42.「矢に学ぶ」②矢筋にのせる

43.「矢に学ぶ」③矢押し

44.「矢に学ぶ」④矢引き

45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口

46.「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる

47.「矢に学ぶ」⑦矢になる

48.スランプの原因を物理的に考察する

49.取り懸けをミクロに考察してみる

50.取り懸けをミクロに考察してみる(大切な補足編)


51.「離れ」の瞬間を考察する


がんばれ!

2021年8月1日日曜日

◎7月のベストな的中

 7月のベストな的中は、これです。

オリンピックのアーチェリー競技を応援していると、的心を狙いたくなってきます。

的心を狙うようになると、集中力が高まり、取り懸け・手の内、張合いの精度も上がります。


集中して弓が引けると、こんな結果が出ることもあります。

「まぐれ中り」かもしれませんが、60歳を超えた非力な凡人も、理屈にあった引き方ができていれば、こんな的中が出せることもたまにはあるようです。



的中と仲良しになるためには、ぜひ、弓道の的中(射技)の物理的考察を参考にして稽古を楽しんでください。


がんばれ!