49.取り懸けをミクロに考察してみる
夏合宿や強化練習が終わり、的中が上がった人とうまく上達できなかった人との差が出てくる頃かと思います。
この差は、3.的中についてで説明したように、「的中は「的付け通りに矢を飛ばす」という実に単純な物理現象で生み出せます。」このことを実現できるようになったか否かという単純な差だということに尽きます。
的中は、射形の良し悪し、射癖の有無にはあまり相関がありません。流派によって引き方や取り懸け方が違うことが、既にこのことを証明しています。
中らない練習をいくらやっても上達はできないので、離れの瞬間に何を実現すれば良いのかを知ることで、今後の有効な稽古の目標として参考にしてください。
取り懸けについて、形や方法は、流派によって違いがあります。なので、流派によって背反することを教えられることもあります。しかし、最終的な取り懸けの目的は、
①矢を保持する。
②的付け通りに矢が飛び出すよう弦を発出する。
この2点に集約されます。
これらの目的を達成させるために、会から離れで物理的に何を起こせば良いのかを少しミクロな見方で考えてみたいと思います。
<仮説>
取り懸けでは、親指を反らすか反らさないかより、弦枕から(で)弦を押し出すということが重要です。
<検証>
前回の48.スランプの原因を物理的に考察するの補足にも書きましたが、
「勝手の親指は弽帽子の中で反らす」とよく言われます。しかし、帽子の形は先細りになっているため、親指が反らせるような形にはなっていません。第1関節が若干曲がった状態で無理矢理反らそうと力を入れると、手を開いて離すようになり、弦で耳や頭や腕をはらう原因になるのです。さらに、手を開いて離す動作は押し手に相応し、弓を落としたり、飛び出し易くなったりもします。なので、弦を弦枕で押し出す方向(上図ピンク矢印)にカケ解きの力を加えることで、親指が反った形になろうともするし、押し手も角見での押しが意識でき、親指と中指で作った手の内(輪)が締まったままになるので、弓は弦が切れた時でも飛び出さなくなります。
と説明したように、弽帽子は親指を反らせる形にはなっていないのに、反らすようにと教わります。私も学生の頃、これを忠実に受け止め、親指は弽帽子の中で曲がってはいるものの親指を反らし続けるような力を入れていました。
なので、親指の爪先と帽子がこすれて、内弽にすぐ穴が空いていました。
離れでも、3つの指が花開いたようになるので、残身で慌ててすぼめてとりつくろっていました。
こんな感じ、確かに、この方法で的中は出ましたので、一利ある方法だったのかも知れません。
しかし、離れで押し手も開いて閉じるというように相応してしまって、弦が切れた時などは弓を放り投げてしまいます。学生の頃は的中優先ですから、そんなことはおかまいなしでしたが。今では理不尽な技の一つであったように思います。
親指を反らす派では、弽を緩く着けて浅く指を入れておいて親指を反らすことを勧める人もいるかもしれませんが、曖昧な感じニアリングに頼るのは不確実で、どうも私には馴染めません。知りたいのは、何のために親指を反らさないといけないのかと言うことです。
では、今回の結論を説明します。
「離れ」をミクロに見ると、弦枕から弦が外れるという単純な現象です。
したがって、会で弦が弦枕から外れるように力を働かせていけば、離れを起こすことができます。
弦を弦枕から外れるようにするための会での弦と親指の力の関係を表すと、以下の図のようになります。
親指の第2関節部分(押し手で言えばちょうど角見にあたる部分)で弦を(弦枕で)押し出すようにしていれば、テコの原理で弽帽子の先端は中指から外れる方向に力が働きます。弽帽子は硬くなっているので、親指の第1関節が弽帽子の中で反らしていようが曲がっていようが、関係無いのです。
これが、親指を反らすほうがいいか反らさなくてもいいか、諸説ある理由かと思われます。つまり、諸説あるぐらい関係が無いということなのです。
では、中指・人差指との力の関係も合わせてみてみましょう。
取り懸けで親指を押さえた中指との接点(取り懸け支点①)を中心に弦枕で弦を押出す力は、弦から人差指に伝わり、人差し指から中指を押出す方向に伝わります。(なので、中指と人差指は揃えていることが大事です)
先に説明したように、親指の先端は、中指から外れる方向に力が働いているので、2つの作用で、必ず取り懸けは解けます。もちろん、ゆっくりと仕掛けていかなければ、ブレが出ます。
この時、支点①-支点②間、人差し指第2関節-親指第1関節間に遊びが無いようにしないと余計な力が必要になるし、離れも鈍くなります。48.スランプの原因を物理的に考察するで説明したような弽帽子の首折れにも繋がります。
遊びを無くすには、2.的中のための取り懸けについて(三つガケの場合)での「④中指と親指はほぼ平行に近づく様に薄くすること。」と「弦捻り」を相乗して効かせるのです。
この状態で、弦枕の1点で弦を押し出すように力を働かせ続けます。
この時の勝手の手の内では、小指に親指の第2関節を近付けるようになっています。この作用も押し手の手の内と相応しているのです。
以上のことは、34.かけほどきを身につけようで説明したようにシミュレーションで確認ができます。弦捻りと弦枕の押し出す力の働かせ方を練習してみてください。
今回説明してきた内容も精神論ではありませんので、これだけの手段(技)を知っておけば、離れを導くことにもう迷うことはないでしょう。そして、両肘の張りをかけた会のままで、技を仕掛けて離れることが出来るようになれば、必ず的中が付いてきます。物理的にそうなるのですから・・・。
離れの瞬間
<まとめ>
離れは、ミクロに見ると、弦枕から弦を外すという単純な現象です。
それを起こすために働かせなければならない力があります。
取り懸けは、ただ弦を握って離すというわけではありません。
しかし、知ってしまえば単純なことなのです。
①弦捻りをかける。
②弦枕で弦を押し出す。
会で、この2点を実行するのみです。
もしかすると、
私たちがよく耳にする「角見で押して離れる」と言う表現は、このことを言っているのかも知れませんし、ただ、私たちが、勝手に、押し手のことと勘違いしているだけなのかも知れません。敵には明かせない手の内も、押し手のことではなく勝手の取り懸けにあるのではないでしょうか・・・。
その明かせない手の内を、ここでは明かしてしまったと言うことになるのでしょう。
ちなみに・・・
私が、「弓道の的中(射技)の物理的考察」をするようになったきっかけは、弓道の再開当初、現役当時の弓・矢・弽で始め、自分が現役の時にどのようにやっていたのかを思い出しながら引いていた時、現役最後の大会のことを思い出したことでした。大会前の練習では焦りなどもあって、自分のやってきたことが見えなくなって、的中が前日まで約6割とスランプにありましたが大会では約9割となり、あと1中で東西対抗に行けたという惜しい結果となりました。この時の大会前後での違いが何だったのかを知りたいと思ったわけです。
大会の緊張の中で、心がけていたことは、
①ひかがみを張る(緊張による足の震え防止にもなった)
②矢こぼれしないよう、弦捻りを充分に効かせる
③しっかりと勝手の親指を反らす(中指と親指が薄くなるように効いていた)
④押し手の角見と勝手の肘で、真っ直ぐに張り続ける
この4点だったことは、はっきりと覚えています。
これらが、的中にどのように作用していたのかを解明したくなったわけです。このように、的中については、ちょっとした力の働かせ方の違いで、結果が出せるかどうかを左右します。これまでの考察で、ほぼその謎は解けたように感じます。
次回は、未定 を予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。
がんばれ!
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