45.「矢に学ぶ」⑤矢の離れ口
初心者で、最初の立ちに入った時は、矢をつがえ、弓を引いて、握った弦をどうやって離したらいいのか?みんなこのような状態であったことでしょう。
しかし、稽古を重ねていくと、引き分けから会に入って早々に、押しと勝手のタイミングを合わせて離すことを覚えてしまいます。それだけで、結構、中りが出ます。
練習量の多い学生の時にはこれでもいいのですが、社会人になってくると、ぐっと練習できる回数は減って、週に数度、数十射かといった具合になってきます。
そうすると、離れのタイミングも合わなくなってきますし、タイミングよく離す練習を続けることにも疑問が湧いて来るようになります。そして、次の目標を見失ってしまいます。
今回の内容が、その疑問の答えになって、次の目標を見いだすきっかけになれば幸いに思います。
「矢に学ぶ」
⑤矢の離れ口(今回)
⑥矢妻をとる
⑦矢になる
昔の考え方なので、今では違和感があるところもありますが、今回も原文のまま紹介したいと思います。
「矢に学ぶ」(原文)
S59.10.25
⑤矢の離れ口
- 「離れ口」と申しますのは「離れを誘う手口」であります。これは「放す手口」つまり「放し技」と誤解してはなりません。離れは自然に起る現象です。だから「矢の離れ口」とは、矢が矢筋通りに離れて行くように「矢筋に乗せてやる手口です」
- 矢の離れ口について、弽と弦の「分かれ」か、それとも弦と矢の「離れ」かという議論もありますが、一番トラブルの起こり易いのは弽と弦の「分れ口」であります。矢筋通りに弽が「弦分かれ」すれば、弦はそのまま真直ぐに矢を押し出すことになります。
- 離れ口について押手から離れ口をとるか、それとも勝手からとるか、という問題があります。昔は弓術時代(斜面打起こし)は、勝手から離れ口をとりましたので弽の「掛け口」について随分沢山の口伝を残していますが、これは非常に難しく、今日でも勝手離れする初心者は絶対に矢が定まりません。私は近代射法の在り方(正面打起こし)から長年、押手からの離れ口をとるように指導してきました。
- それは「押手から弦をほどく」という手法であります。いろいろ指導する場合も必ず押手から教えていますように、押手さえ確かなら少々「弦もつれ」しても「矢ぶれ」しても矢筋に矢を乗せることができるという経験からそうしているのであります。
- 要するに矢の離れ口とは矢を「弦で送る」か(勝手)、それとも「弓で送る」(押手)かということから、「弦をほどく」のか、それとも「弓で押し切る」かという感覚的な差異が生じ、そこにそれぞれの対応技法が開発されていることに間違いないと思います。
ここでのポイントは、以下の3点になります。
- 離れ口とは、離すのではなく、離れを誘う方法である。
- 離れは、押し手から誘う。
離れを誘うのは、当然、会で取り掛けが解ける寸前の臨界状態になっている段階になっていることが、必須です。そうなっていなければ、いくら押し手から誘っても、取り掛けは解けることなく、離すことになってしまいます。
- 押し手から弦をほどく。
弦をほどくか、弓で押し切るか、2つの方法があるのですが、矢所を安定させるには、弓で押し切る方が簡単で、押し手から弦をほどくようにする方が良いと説明しています。
会で、取り掛けの3つの指を薄く絞り弦ひねりをかけることで、取り掛けが解ける寸前の臨界状態を創り出します。そこから、的に向かって弓を押し切る。それが離れの誘い方として、難しくない方法だということです。
がしかし、
上記は、剛弓を引き小離れであった時代の概念であったと思われます。
(押しに重きを置き勝手側の動きをあまり意識しない、弓が強いので、どちらかというとアーチェリーの引き方に近かったのかも知れません)
さほど強い弓を引かず大離れが好まれる今日においては、少し違ってきていることに気付かなければなりません。
大離れを実現するには、左右のバランスが重要になってきます。したがって、離れ口の取り方も当然変わってくるのです。
大離れとなるための離れ口の取り方のポイントは以下です。
- 両肘で弓を体に充分に引きつけること。(射法八節図解「両肩の線を矢に近づける」と表現されていますが、文字どうりにとらえると、体で迎えにいくようになるので、両肘で引きつけると考えた方が良い結果になるようです)
- 体に引きつけている両肘の張りの中心に胸を割り込んでいくことで、離れ口とします。これによって、体を中心に左右バランス良く離れの力が働くことになります。(射法八節図解「胸郭を広く開き矢を発せしむ」との表現は実にとらえづらいですね。)
上図の①②の張りをかけ続けることで矢と両肩は近づく、この時、口割りが付き過ぎないようにする(矢口が開き前下に矢が飛ぶので、③弦ひねりを増すようにして口割りとの間隔をとると良い)。離れるまで④胸を割り込む力を働かせ続けることで大離れを生む「離れ口」となる。
- 離れのイメージトレーニングも重要です。
左右の腕を折りたたんで(会の状態を左腕も折りたたんでつくる)、両親指を伸ばしながら、空手の形のように素早く、真っ直ぐ左右に開き残身の型をとる練習を繰り返します。できるだけ「キレ」を重視してください。この動作を自分の体にインプット(学習)させます。そうすると、懸けほどきのときと同じように、実際の立ちの離れでも出せるようになります。(ゴム弓練習より重要です)これも、補助輪を外して初めて自転車に乗れるようになる時のあの感じです。
会の状態を真似て、左右へ真っ直ぐ素早く開く
なぜ、左腕(押し腕)も折りたたんで開くようにするのか?
会のように押しは伸ばしたままの方がいいのではないか?
答えは簡単です。弓圧がかかっていない状態で伸ばしたままでは、左腕の筋肉はほぼ休んでしまっているし、筋力をバランス良く働かせる練習にならないからです。
稽古の後にやると、弓圧で圧縮された骨格をリセットできるようです。(個人の感想です)
会の中で大離れを意識して出そうとすると、どうしても小手先の離れになってしまい、良い結果とはならないでしょう。イメージトレーニングを繰り返すことで、意識せずに身についた動作として出せるようになることが大切なのです。
大離れは、空手の形やダンスのポーズと同じように、身につけるものと考える方が良いと思います。
このイメージトレーニングは、残身で手が下がったり、上がったりする場合の修正にもとても有効です。
離れの考え方については、
を参考にしてください。
取り掛けを解く方法については、
『◯弓道の的中(射技)の物理的考察~カケ解きはどのように作用させればいいの~』
『◎弓道の的中(射技)の物理的考察~かけほどきを身につけよう~』
で、具体的に説明しています。
<まとめ>
離れ方については、人それぞれで、いろいろと方法はあると思います。最も悩むところではあると思います。先人の経験・意見を参考にすることは、自分にあった方法を見つけ出すために必要なことだと思いますが、実状にあったものであるかは、よく考えてやってみることが重要です。
ところで、
勝手側の残身の形は、物理的には的中にはほとんど相関はないと考えられます。昔は小離れでよくても現在は大離れだという風に変化していることやアーチェリーでの引き腕の動きからも、放たれた矢の方向性にはあまり相関がないということは明らかです。なので、形やポーズと同じように身につけるもの(フォロースルー)と説明しています。
次回は、「矢に学ぶ」⑥矢妻をとる を予定します。
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